近年、イギリスの教育現場はある「静かな危機」に揺れています。最新の統計(2024/25年度)によると、長期欠席者の割合はパンデミック前を大きく上回ったまま推移し、特に「情緒的な理由」で学校に行けなくなる子どもたちが急増しているのです。
「カウンセリングが身近で、メンタルヘルスへの理解が深いイギリスで、なぜ?」
この疑問の裏には、日本にも通ずる、あるいは日本以上に深刻な「教育と心のミスマッチ」が隠されていました。
「不登校」と呼ばないイギリス―注目される「EBSA」とは?

イギリスでは今、従来の「スクール・リフューザル(学校拒否)」という言葉に代わり、EBSA(Emotionally Based School Avoidance:情緒的要因による登校回避)という用語が主流になっています。
かつての「不登校」は、子どものわがままや家庭のしつけの問題として片付けられがちでした。しかし、EBSAという考え方は、「学校に行きたいという気持ちはあるのに、不安や恐怖などの圧倒的な感情によって『身体が動かない』状態」を指します。
イギリスの学校が実践する「EBSA初期対応」の4ステップ
イギリスでは、子どもが「行きたくない」と言い出した際、学校側には標準化されたプロトコルが求められます。日本のように「まずは様子を見ましょう」で終わらせない、具体的なステップが確立されています。
- 早期発見(Early Identification)
遅刻の増加や、特定の授業での体調不良を「サイン」としてデータで把握します。 - プロファイリング(Profiling)
「何が不安か」を可視化するため、「安心・不安マッピング」を作成します。学校の地図を広げ、トイレ、廊下、教室など、場所ごとに不安度を色分けします。 - 環境調整(Reasonable Adjustments)
カウンセリングを行う前に、まず「物理的苦痛」を取り除きます。「騒がしい昼休みは図書館で過ごして良い」「朝は校門ではなく裏口から入る」といった個別配慮が即座に検討されます。 - リターンプランの作成
「毎日行く」か「行かない」かの二択ではなく、「週3日、午前中だけ、音楽の授業だけ」といったスモールステップを、学校・保護者・本人が合意書として交わします。
「カウンセリング充実」の皮肉な落とし穴
イギリスは日本に比べ、学校内にカウンセラーが常駐しているケースが多く、GP(かかりつけ医)を通じて心理療法にアクセスするハードルも低いです。それなのに、なぜ不登校は増え続けているのでしょうか?
そこには、「個人のケア」はできても「システムの硬直化」は解決できないという限界があります。
待機リストの壁
需要が供給を大幅に上回り、専門的な支援を受けるまでに数ヶ月〜1年以上かかるケースが常態化しています。
「制度」の厳格化
近年のイギリスでは、学校の規律(Behaviour Policy)が厳しくなる傾向にあり、繊細な子どもには「軍隊のようだ」と感じられることもあります。
診断名の増加
ASD(自閉スペクトラム症)やADHDの診断がつく子どもが増えたことで、「今の学校システムそのものが自分に合っていない」と自覚する子どもが増えたことも一因です。




