「どうせやっても無駄だ」「もう諦めるしかない」。
このような感覚に襲われ、何も手につかなくなる状態は、誰にでも起こりえます。
この心理的なメカニズムが、学習性無力感(Learned Helplessness)です。
これは、人が長期間にわたってコントロールできない出来事に直面し続けた結果、「自分の行動は結果に影響を与えない」という諦めの状態を学習してしまう現象です。単なる怠けや意欲の欠如ではなく、過去の経験によって作り上げられた心の防衛反応とも言えます。
これが慢性化すると、うつ病などのメンタルヘルスの問題に発展するリスクが高まります。
セリグマンの実験

学習性無力感の概念は、心理学者マーティン・セリグマンが1960年代に犬を使って行った、非常に示唆に富む実験で確立されました。
実験では、犬を3つのグループに分けました。
- 回避可能グループ
電気ショックを自分で止める方法(レバーを押すなど)を与えられた犬 - 回避不可能グループ
何をしても電気ショックを止められない犬 - 統制グループ
電気ショックを与えられない犬
次に、全ての犬を、簡単に飛び越えられる低い柵で区切られた部屋に入れました。この部屋では、柵を飛び越えれば電気ショックから逃れられます。
その結果、回避可能グループと統制グループの犬はすぐに柵を飛び越えて逃げました。しかし、回避不可能グループの犬たちは、逃げようとせず、床に座り込んでショックに耐え続けたのです。彼らは「何をしても無駄」という過去の経験から、「逃げられる状況」を認識し、行動することすらやめてしまったのです。
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