なぜ「甘え」や「偏見」に結びつくのか?

制度が整っても意識が追いつかない理由には、日本独自の「文化的な背景」がデータに表れています。
① 「医療化」ではなく「モラル化」する文化
日本とカナダの比較研究(2021年)によると、カナダ人は精神疾患を「脳の病気(医療の問題)」と捉える傾向が強いのに対し、日本人は「本人の性格や道徳心(モラルの問題)」と捉える傾向が有意に高いことが示されています。
モラル化とは
症状を「病気」としてではなく、「根性がない」「努力が足りない」といった個人の資質の問題として処理してしまう心理的メカニズムです。
② 「身内への偏見(スティグマ)」の強さ
厚生労働省の資料によると、精神障害者の家族の約30%が、周囲からの偏見や差別を経験しています。特に20代の家族ではその割合が54%まで跳ね上がります。
「家族に不調者が出ることは恥ずかしい」という世間体の意識が、早期発見・早期治療を妨げるブレーキになっています。
2024年施行「孤独・孤立対策推進法」の壁
2024年に施行された新法は、孤独を「個人の問題」から「社会全体の課題」へと格上げしました。しかし、内閣府の調査(2023年)では、孤独感が「しばしばある・常にある」と答えた人は4.9%ですが、潜在的な孤独層(時々・たまにあるを含む)は約40%に達します。
これほど多くの人が苦しんでいるのに、企業や学校でゲートキーパー(悩んでいる人に気づき、声をかけ、つなぐ人)が浸透しにくいのは、「他人のプライベートに踏み込むことへのためらい」が56%(前述アクサ調査の「他人に親切にする割合」の低さと相関)と高いためです。
解決の糸口【数字を「自分事」にする】
ゲートキーパーを広めるためには、「特別な誰かのための活動」ではなく、「全人口の数値を下げるためのインフラ」として提示することが重要です。
- 経済損失としての視点
メンタル不調による日本の経済損失は、年間約2.7兆円にのぼると試算されています。 - ゲートキーパーの効果
研修を受けた組織では、相談件数が数倍に増えるだけでなく、離職率が低下するというデータもあります。
結論
メンタルケアが「甘え」とされるのは、私たちがまだ「心の不調=脳や環境のシステムエラー」という科学的データを、個人の感情論にすり替えてしまっているからです。
2024年の新法を形骸化させないためには、「4割の人が孤独を感じている」という多数派の視点で、ゲートキーパー養成を「避難訓練」のような標準装備にしていく必要があります。
2024年に施行された「孤独・孤立対策推進法」により、国としての枠組みは整いました。しかし、現場では依然として「メンタル不調は自己責任」「甘え」という根強い偏見が、ゲートキーパー(悩んでいる人に気づき、支える人)の普及を阻んでいます。
なぜ制度があるのに意識が変わらないのか。企業と学校、それぞれの現場でゲートキーパーを導入する「具体的メリット」を最新のデータとともに解説します。




