「いいね!」の奴隷になってない?SNSと承認欲求の心理学

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マズローが教える「人間が求めるもの」

私たちが「いいね!」を求める行動は、わがままや気まぐれではありません。それは、心理学者のアブラハム・マズローが提唱した、人間が持つ根源的な欲求と深く結びついています。

SNSでの「いいね!」は、欲求のピラミッドの中間にある、特に重要な二つの層を満たそうとしています。

(1) 「仲間でいたい」という願い(所属の欲求)

私たちは集団の中にいることで安心します。「このコミュニティの一員だ」と感じたい。「誰かとつながっている」と実感したい。

SNSのフォロワーやグループへの参加は、この「所属感」を簡単かつ手軽に与えてくれるため、孤独感を一時的に埋めてくれます。

(2) 「認められたい」という願い(承認の欲求)

そして最も強いのが、「自分は価値のある人間だ」と認められたいという欲求です。

SNSでは、自分の投稿が評価されることで、「あなたはすごい」「あなたの考えは正しい」という外からの承認を瞬時に得ることができます。

承認欲求が私たちを苦しめる「二つの落とし穴」

A serene view of golden ginkgo leaves in early winter, captured in Nanjing, China.

SNSで承認を得ることは気持ちが良いですが、これに頼りすぎると、かえって心が疲弊してしまう「落とし穴」があります。

(1) 虚像が愛されるジレンマ

SNSに投稿するのは、「人生の最高の瞬間」だけ。私たちは、自分の「理想の姿」だけを切り取って見せます。これを自己提示といいます。

問題は、その虚像に「いいね!」が集まったとき、「ありのままの自分」ではなく、「作り上げた自分」が愛されていると分かってしまうことです。

【考えてみてください】

最高の自分への評価を、「本当の自分への愛」だと勘違いし続ける限り、私たちは永遠に満たされない感覚を抱き続けることになります。

(2) 他人と比べてしまう苦しみ(社会的比較)

SNSを見れば、誰もが成功し、幸せそうで、充実しています。私たちは、知らず知らずのうちに他人と比較してしまいます。

その結果、「あの人はこんなに素晴らしいのに、私は…」と、自分の自己肯定感を自ら下げてしまうのです。そして、この下がった自己肯定感をまた「いいね!」で埋めようとする、という悪循環が生まれます。

心を守り、SNSと上手に付き合う三つのヒント

「いいね!」に振り回されず、心豊かにSNSを利用するために、承認の基準を「外側」から「自分自身」へと変えていきましょう。

  1. 他人との比較をやめる(自己内比較)
    誰かと比べるのではなく、「昨日の自分」と比べてみましょう。小さな進歩でも、自分で自分を褒めて、承認する習慣をつけましょう。
  2. 通知にすぐ反応しない(一呼吸置く)
    通知が鳴っても、すぐにスマホを開かず、「今、私はなぜこれを開きたいのだろう?」と自分の心の動きを観察する時間を持つ。
  3. SNSを「鏡」ではなく「窓」として使う
    自分の飾りたい姿を映す「鏡」としてではなく、知識や興味を広げる「窓」として利用する、という意識を持ちましょう。

SNSはあくまで道具です。あなたの価値は、「いいね!」の数で決まるものではありません。自分で自分を認められる強さを持つこと。それが、SNS時代を心穏やかに生きるための最も大切な心理学なのです。