なぜ「いじめ」は消えず、なぜ「動けない」のか。精神医学が解き明かす不登校の真実

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不登校を「怠け」や「心の弱さ」と切り捨てる時代は終わりました。

現代の精神医学が解き明かしたのは、それが脳による極めて高度な「防衛本能」であるという事実です。

その鍵を握るのは、脳の奥底で不安や恐怖を司る「偏桃体(へんとうたい)」です。いじめや過度な同調圧力、あるいは「期待」という名の無言の暴力に晒され続けると、偏桃体は過剰に発火し、脳内は警報が鳴り止まないパニック状態に陥ります。

このとき、脳は個体の崩壊を防ぐために、あえてシステムをシャットダウンさせます。つまり、「動けない」のではなく、命を守るために脳が「動かさない」という決断を下しているのです。 この深い休息は、再起のための聖域に他なりません。さらされると、この検知器が24時間フル稼働し、本来は安全であるはずの教室を「命の危険がある場所」と誤認します。このとき、脳内ではストレスホルモンであるコルチゾールが大量に分泌され、思考を司る前頭葉の機能を麻痺させます。

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脳が選ぶ「凍結」という選択

なぜ学校に行こうとすると動けなくなるのか。それは、精神医学で注目される「ポリヴェーガル理論(多重迷走神経理論)」で説明できます。

人間は強すぎるストレスに直面した際、以下の3段階の反応を示します。

  1. 社会的交流: 助けを求める(初期段階)
  2. 闘争・逃走: 反抗する、または逃げ出す(交感神経の興奮)
  3. 凍結(シャットダウン): 体が動かなくなる、感覚が麻痺する(背側迷走神経の反応)

不登校の「動けない」状態は、脳が命を守るために強制的にブレーカーを落とした「凍結」の状態です。これは、動物が捕食者を前にして「死んだふり」をするのと同様の、極めて高度な生存本能なのです。

いじめが脳を物理的に傷つける

いじめが恐ろしいのは、心の問題だけでなく、脳の物理的な構造に変容を及ぼす点にあります。

精神科医ハーバード・タイチ博士らの研究によると、深刻な言葉の暴力やいじめを経験した子どもの脳では、記憶を司る「海馬」が萎縮し、左右の脳を繋ぐ「脳梁」が細くなる傾向が確認されています。

医学的視点:不登校は、傷ついた脳組織を修復し、これ以上のダメージ(神経毒性)を防ぐための「緊急避難」といえます。

なぜ「いじめ」は消えないのか

進化心理学の視点では、集団内のいじめを「同質性を保つための本能的排除」と解釈します。

人間には、自分たちと異なる個体を排除することで集団の結束を高め、脳内で快楽物質ドーパミンを分泌させるという「負の報酬系」が備わっています。これが「いじめはなくならない」という絶望的な構造の正体です。

しかし、精神医学は「本能だから仕方ない」とは言いません。脳の特性を理解することで、「個人の性格の問題」から「環境の設計ミス」へと視点を転換することを推奨しています。