人間は、心の中に矛盾する2つ以上の考えや信念を持つと、不快な精神的ストレスを感じます。この状態を「認知的不協和(Cognitive Dissonance)」と呼びます。この不快感を解消するため、私たちは無意識のうちに自分の信念や行動を調整しようとします。この理論は、非論理的な行動をとったり、自分をだましてしまったりする理由を解き明かすカギとなるものです
理論の提唱者と発見の経緯:レオン・フェスティンガーとカルト集団の物語

1. 宇宙人からのメッセージ
認知的不協和理論は、心理学者レオン・フェスティンガーによって提唱されました。彼は、1950年代にシカゴで起きたあるカルト集団の出来事をきっかけに、この理論の着想を得ました。その集団は、指導者が受け取ったとされる「宇宙人からのメッセージ」を信じていました。メッセージによると、特定の日の深夜、大洪水によって地球は滅亡し、UFOが彼ら「真の信者」だけを救い出すというものでした。この予言を信じ、信者たちは仕事や人間関係を捨て、全財産を処分して指導者の家に集まりました。
2. 予言の失敗と強い不協和
フェスティンガーと彼の研究チームは、この集団に潜入し、その後の行動を克明に観察しました。予言の日、信者たちはUFOを待っていましたが、深夜になっても何も起こりませんでした。このとき、信者たちの間に強烈な「信念(地球が滅亡する)と現実(何も起こらない)の不協和」が生じたのです。通常であれば、予言が外れたことで信念を捨てると思われがちですが、彼らの行動は逆でした。
3. 信念のさらなる強化
強い信仰心を持つ信者ほど、この不協和を解消するために、「私たちの強い信仰心が地球を救ったのだ」と解釈しました。彼らは、信念が間違いだったと認めるのではなく、その信念をさらに強固なものにすることで、心の安定を保ったのです。フェスティンガーは、この現象から人は信念と現実の間に生じた不快感を解消するため、現実よりも自分の信念を変えることを選ぶ場合があるという結論に至り、認知的不協和の理論を体系化しました。