「いい人」の呪い。脳と人間関係の逆説

こんにちは。こころのかふぇ代表の大城です。

早速ですが、皆さん想像してみてください。

あなたは友人とランチに来ています。
本当は、肉汁たっぷりのハンバーグが食べたい。
でも、友人はメニューを見てこう言います。「私、今日は軽くサラダランチにしようかな」

その瞬間、あなたの脳内では電光石火の計算が行われます。そして口から出る言葉はこうです。
「あ、それいいね！ 私もサラダにする」

……心当たりはありますか？

私たちはこれを「協調性」や「優しさ」と呼びます。
しかし、心理学の世界では、もう少し違った呼び方をすることがあります。

それは、「過剰適応（Over-adaptation）」。

今日は、なぜ私たちがこれほどまでに「自分」を殺してまで「他人」に合わせてしまうのか。そのメカニズムと、そこから自由になるための「人間関係のパラドックス」についてお話ししましょう。

あなたの中の「原始人」が怯えている

なぜ、私たちは「NO」と言えないのでしょうか？
性格が弱いから？ 勇気がないから？

いいえ、違います。
それは、あなたの「生存本能」が優秀すぎるからです。

時計の針を数万年前に戻しましょう。
狩猟採集時代、私たち人間にとって「集団から嫌われること」は何を意味していたでしょうか？
それは「孤独」ではありません。「死」です。

集団から追い出されれば、食料は手に入らず、猛獣に襲われて終わりです。だからこそ、私たちの脳には深く深く刻み込まれました。
「みんなと同じでいろ。嫌われるな。それは死に直結するぞ」と。

現代の私たちが、上司の機嫌や友人の顔色を過剰に気にしてしまう時、脳内では「猛獣警報」が鳴り響いています。
あなたの「優しさ」の正体、それは実は、数万年前から続く「生存のための恐怖」なのです。

「いい人」ほど損をする？ ベン・フランクリン効果の衝撃

でも、ここは21世紀です。

ここで一つ、皆さんの常識を覆す面白い心理学の実験をご紹介しましょう。私たちはこう思い込んでいます。
「相手のために尽くせば、相手から好かれるはずだ」と。

しかし、心理学は残酷な真実を突きつけます。

アメリカ建国の父、ベンジャミン・フランクリンの名を冠した「ベン・フランクリン効果」という現象をご存知でしょうか？
これは、「人は、親切にしてくれた相手よりも、自分が親切にしてあげた相手のことを好きになる」という心理効果です。

脳は、自分の行動を正当化しようとします。
誰かを助けた時、脳はこう考えます。「私がわざわざ助けてあげたんだから、この人は『助ける価値のある素晴らしい人』に違いない」と。

つまり、どういうことか？
あなたが「いい子」になって相手の顔色を伺い、尽くせば尽くすほど、実は相手にとってあなたは「どうでもいい人（都合のいい人）」になり下がるリスクがある。
逆に、あなたが少しわがままを言って、相手に頼ったり助けてもらったりする方が、「あいつは放っておけない、愛すべき奴だ」と愛される可能性が高いのです。

衝撃的ではありませんか？
私たちは「愛されるため」に我慢していたのに、それが逆効果だったなんて。

「完璧な彫像」より「ひび割れた壺」になろう

私たちは、人間関係において「完璧な彫像」になろうとします。
いつも笑顔で、不満を言わず、役に立つ美しい像です。

でも、誰かと本当の意味で繋がりたいなら、目指すべきは「ひび割れた壺」です。

あなたの「弱さ」、あなたの「NO」、あなたの「本当の欲求」。
その「ひび割れ」から漏れ出す光こそが、人間味であり、他人があなたに共感し、手を差し伸べる「取っ手」になります。

「いい子」をやめることは、相手を攻撃することではありません。
「私はロボットではなく、心を持った人間です」と宣言することです。

最後に、あなたへの招待状

もし、あなたが長年の「生存本能」という呪縛から抜け出し、ベン・フランクリン効果のような「愛されるわがまま」を身につけたいと思うなら。
あるいは、怖くてどうしても最初の一歩が踏み出せないなら。

私たち「こころのかふぇ」を、作戦会議室として使ってください。

カウンセリングは、病気の人が行く場所ではありません。
それは、自分の脳の「古いプログラム（思い込み）」をアップデートするための場所です。

今日から、サラダではなくハンバーグを選びましょう。
小さな「NO」を言ってみましょう。

世界はあなたを見捨てません。
むしろ、ありのままのあなたに出会えることを、世界はずっと待っていたのですから。